子供さんの歯並びについて


 長らく小学校の歯科校医を務めてきましたが、ここ30年の一番大きな変化として感じることは歯並びの悪化とそれに伴う口の機能低下です。もちろん全国的な傾向ですが50%近くの子どもたちが何らかの問題を持っていると報告されています。悪い歯並びのことを不正咬合といいます、不正咬合はとかく見た目に関心がいきがちですが、むし歯や歯周病などになりやすく、かむ力やあごの発育など広範囲への影響が考えられ、結果として体の成長への関わりも無視できません。逆を言いますと、きちんと食事で噛める機能が育成されていけば、顎は正しく発育し審美的にもよい顔になっていくということです。

 では不正咬合となる原因を考えてみましょう。多くの不正咬合は歯と顎のアンバランスから発症しますので、一番重要なことはやはり毎日の食事です。古代人と比較すると噛む回数も食事時間も6分の1程度に減っているといわれています。1970年頃からのファーストフード店の登場もあり、ハンバーガーなどの軟らかい加工食品の普及により、今や日本人は世界中で最も軟らかい食物を好む人種だそうです。野生動物同様に古代人は「歯が命」だったに違いありません。噛むことによる頭蓋骨の発育は鼻腔や眼窩の発達にも関係し、鼻づまり(口呼吸)や近視にも関係することがわかっています。家庭ではとにかく噛む回数を増やすような噛みごたえのある食材、調理法が必要です。硬いものがよいわけではありません、硬いものを食べ慣れない子どもは丸呑みしてしまい逆効果になってしまいます。食いちぎるような前歯を使う食材やその大きさは顎や表情筋など口周囲の発育を促し、口元が美しい表情豊かなよい顔の育成につながります。また、食事中は出来るだけ飲物は食卓に置かず(流し食べ防止)、少しでも噛む時間を増やしていただきたいと思います。その点ではパン食よりごはん食の方が優れています。

 次に悪習慣も不正咬合の大きな原因です。口呼吸はじめ、前歯で唇をかむ、指しゃぶり、頬づえ、などが主なものですが、舌の問題も重要です。口呼吸の子どもに多いですが、発音時にいつも舌が見えたり、舌足らずのように発音も悪く、嚥下もうまくいかない子どもさんもいます。低学年では給食時になかなか飲み込めない子どもさんもおり、なかなか難しい問題となっています。

 また、栄養の関係でしょうか近年は歯が大きくなっている傾向にあります。上前歯(中切歯)の幅が女子で8.4mm、男子で8.6mmといわれていますが、10mmmもある児童もいます。また先天的に後継永久歯がない子どもも増加しています。以上のように、各種の条件で歯並びやお口の機能は大きく影響を受けています。 

 それでは治療の話をしましょう。昔は全ての歯が永久歯に生え変わった時期に歯を抜いて治療する「抜歯矯正」が主流でした。しかし現在は出来る限り大切な歯を抜かないで治療する考え方になってきています。その為にはやはり早期治療が必要となります。このような将来ひどい状態になることを早めに回避していく処置を「予防矯正」とも言います。この点では下前歯が生え変わった時に、少し重なっているとか凸凹しているという低学年時期が一番重要な時期で、比較的簡単に改善することも可能です。体の成長時期に合わせて改善していきますが、どうしても高学年までの長期管理が必要となります。しかし10歳を過ぎ、犬歯が生え変わる頃まで放置してしまいますと、とても難しい不正咬合に移行してしまいます。矯正治療は歯並びだけでなく、上下の顎の位置関係改善も重要なポイントですのでいろいろな装置があります。例えば反対咬合(受け口)などは早期の対応が求められます。一般的に低学年児童では取り外し型の装置が主に使用されます。顎を拡げたり、上下関係を改善したりしますが、高学年では場合により全体の歯に針金を取り付けるワイヤー治療も必要になります。重度の場合には顎の外科手術が必要とされるケースもあります。いずれにしろ長期にわたることとなりますので、ご家庭での協力、応援が必須となります。

 結論となりますが、どの学年でありましても少しでも歯並びや口元が不自然に感じましたらチェックが必要です。残念ながら特殊症例以外は健康保険の適用になりませんが、放置して大事(おおごと)にしなければ時間的にも費用的にも軽減できるものと思っています。

まずは今一度ご家庭での食生活を見直していただくと同時に、適度な運動や正しい睡眠などよい生活リズムを身につけることが将来にわたっての健康維持増進の第一ステップと確信しています。

むし歯や歯周病とは違った大変難しい問題ですが、「よく噛める歯」は子供さんの全身の健康に関わる一生の宝と思っていますので、何か不明な点などありましたらご相談ください。